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トップ明星学苑報>学苑報NO.32

明星学苑報WEB版

めいせいの芽
2010年日本建築学会賞(業績部門)受賞

 ラオスの子どもたちのために、
 建築家として何ができるだろう?

——日本建築学会賞の受賞おめでとうございます。
ありがとうございます。権威ある日本建築学会から賞をいただけるとは想定外だったので驚いています。本当にありがたく感じています。

——「一般財団法人民際センター」との共同受賞ですね。
民際センターは、もともとタイの子どもたちへの教育支援を行っていたNGO団体で、1万円の寄付金でひとりの中学生が1年間学べるという奨学金援助を展開しています。すでに30万人以上を支援した実績があり、その活動を隣国のラオスにまで広げようと現地を調べたところ、ラオスの教育環境は国民の半数が小学校を卒業していないような厳しい状況だったそうです。小学校の校舎の絶対数が足りないことがその原因のひとつだと分かり、奨学金とともに校舎の建設支援も必要だと結論づけられ、新しい支援活動がスタートしました。

——そこで加藤教授と民際センターとのつながりが生まれたわけですか。
そうですね。ちょうど私が以前いた組織設計事務所を辞めて個人事務所を設立し、いろいろ新しいことに取り組みたいと考えていた時期に、知人を通じてボランティアの話をいただいたのです。ただし最初は、とりあえず一度、現地を見てほしいとのお誘いでした。「行ってみて嫌なら断っても良い」とまで言われていたので、初めて訪れる好奇心もあり、ラオス行きを決めたのです。

——その初めてのラオスの印象はいかがでしたか。
確かに貧しいけれど“飢えていない国”というのが第一印象でした。工場でものを作る産業は皆無に等しく、またラオスを取り囲む、タイ、ベトナム、カンボジアなどは観光地として注目されていますが、ラオスにはこれといった観光資源も見当たりません。それでも国民のほとんどが自給自足で生活し、“飢えていない”ことでみんな明るく、「いいところだ」と思いました。

——それでも教育環境は、やはり厳しいものを感じましたか。
厳しいですね。小学校の校舎が足りないことも問題ですが、現在ラオスの教育省が用意している校舎も、四角い箱型の建物に窓を切り抜く欧米仕様。これでは風も通らず、熱も室内に籠もってしまい、赤道直下のラオスには不適応です。しかもそれでも建物があるだけましで、地域によっては竹で作られた簡易の小屋で学ぶ子どもたちもいます。この実情には「建築家として何ができるだろう?」と真剣に考えさせられました。さらには電気も通っていない地域ですからね。ただ難しい条件が重なれば重なるほど、「この環境で何とかしてやろう」と考えるのが建築家です。現地を見て断るどころか、頭のなかは前向きにいろいろな可能性を思い描いていましたね。


 日本人からの支援が15年間途切れずに
 続いていることをすごいと思います。

——校舎の設計・建設となると、単なるボランティアではなく、大きな国際貢献ですね。
実は種明かしをすると、最初は校舎の設計に関するアイデアだけを出してくれればいいとの依頼だったのです。現地を見て、アイデアはいろいろ出てきました。まず自然の通風と採光を考慮するために屋根をずらして、できるだけ高い位置に高窓を置いてやさしい風を取り入れるとともに、強い日射しが直接ではなく間接的な柔らかい光となって射し込むような断面形状を採用しました。また、赤道に近いラオスでは太陽がほぼ真上を通るため、建物自体の軸線を東西にそろえて配置することで、横からの日射しの差し込みを抑えることができます。



さらに、せっかくラオスの支援に来ているわけですから、資材調達や建設の段階で近隣他国にお金が流れてしまう形にしたくないと考えました。ラオスではレンガを焼いて外壁にするのが一般的です。ただし、レンガを焼くために大量の木材を燃やす必要があり、これでは環境面にも優しくありません。そこでいろいろ調べている過程で、インターロッキングブロックという壁材料を見つけました。これは現場周辺で入手できる紅土に少しセメントを混ぜて人力プレスして作るブロックです。これなら少量のセメントのみの輸入で、しかも現場で製作できるため建設費をラオスに多く還元できます。またレンガを焼く必要もなく、木を伐採することもないのです。

——こうしたアイデアの数々を提供されたわけですね。
はい。後は私のアイデアを元に、現地の建築家が図面を描く予定でした。ところが経験が足りなかったのか、誰もコンセプト通りに図面を起こせないのです。そこで、私が自分の事務所で図面を描くことになりました。図面まで描くと、最終的な形を見届けたくなるのが建築家の性ですから、当然建設の現場にも、竣工検査にも立ち合うことになります。そうして気がつけば、15年経ち、26校の小学校が完成していました(笑)

——長年にわたる、このボランティア活動のやりがいは何ですか。
現地に出向いて、ラオスという国を好きになったことが大きいです。とくに国民がのどかで明るいのが魅力ですね。子どもたちも目を輝かせながら、いつも笑顔で挨拶してくれます。また、15年間途切れることなく、毎年1校か2校のペースで校舎が建ち続けています。それだけラオスの子どもたちのために支援している日本人がいるということ。これはすごいことだと思います。何か私にできることがあるならやってあげたい。そういう思いが強いですね。


 建築はもちろん人生設計にも
 しっかりとした“基礎”が大切です。

——ところで明星大学に赴任された経緯は何だったのですか。
明星大学に建築学科ができるタイミングで、これも知り合いの人に声をかけていただいたことがきっかけです。ラオスのボランティアもそうですが、人生のなかで、できることはいろいろと経験してみたい、面白い体験がしてみたい、と常々考えており、学生に建築を教えるのも自分の刺激になると思ってお引き受けしました。

——実際、刺激になりますか。
なりますねえ(笑)。人に何かを教えるには、自分の頭を整理する必要があります。初心に戻る感じで、身が引き締まりますよ。

——建築を学ぶ学生たちには、どのような思いで向き合っているのですか。
まずは何よりも基本を大切にしてもらいたいといつも思っています。基本が分からなければ、応用に進めませんし、応用がなければ面白くないですよね。スポーツでも、ずっと続けている人は日々上手くなって成長している人です。やはり成長するには、しっかりとした基本の上に積み重ねられるものが必要。例えばラオスの小学校の設計も、「暑い地域で電気がなければ、断面を工夫して風と採光を調整しよう」と考えるのは、建築家としての“基本的発想”です。まずそこが出て来ないと、次のアイデアへと発展させることはできません。

——ラオスのボランティア活動と大学の授業とを連携させる予定はあるのですか。
いろいろと構想はありますが、実現には至っていません。ただし興味のある学生も何人かいるようですし、どこかのタイミングで学生たちを連れて行ければうれしいですね。限られた条件下での設計方法など、かなり参考になると思います。そのためにも学生たちには基礎をしっかり学んでもらわないといけませんね(笑)

——ラオスの支援活動の今後の予定はどうなっていますか。
現在27校目の小学校が建設中ですが、すでに31校までは建築の目処が立っていると聞いています。今後もできる限り、このボランティアは続けていくつもりです。ただし、民際センターも含めて、私たちの活動の目的は、小学校の校舎を建てることではありません。ラオスの子どもたち全員に、充実した小学校教育を受けさせられる環境を用意することが目的です。私たちは30校前後の小学校を建築してきましたが、私たちが支援している地域だけでも、子どもたち全員が小学校に通うためには、まだまだ400校近い校舎が必要といいます。NGOの支援レベルでは対応しきれない数字であり、ラオスの国や政府がもっと真剣に教育問題に取り組むことが絶対的に必要なのです。私たちの活動が、少しずつでもラオスの教育環境の見直しにつながっていけばいいですね。日本の人にもラオスが抱える教育問題の現状について知ってもらいたいですし、これからも微力ではありますが、ラオスの子どもたちの未来への貢献を続けようと考えています。